代筆
今日の「猫」はなんだか機嫌が悪く、
ベランダから夕闇の迫る町並みを見つめています。
こんなときは、大好きなカニカマを持っていっても見向きもしません。
その厳しい横顔は、
人間には理解できない悲しみに、耐えているようです。
そんなわけで、今日は飼い主が代筆することにしました。
実家で飼っていた「犬」の話です。
死んだ弟が子犬を残していった。
自分のアパートで飼っていたが、大きくなって飼えなくなったので、
実家につれてきた。
名前は「太郎」
漢字が適当かどうか解らない。
柴犬と何かの雑種だ。
太郎が家に来てから、夜の散歩は私の仕事になった。
私が結婚して家を出るまで、太郎と夜の町を歩いた。
今年18歳。人間で言えば100歳近い。
耳も目もだめになって、散歩の時以外は寝ている。
元気な頃は、私の足に抱きつくようにしてすり寄ってきたのに、
今は何の反応もみせない。
その太郎が父と散歩中に行方不明になった。
リードを放すと、自由に散歩して家に戻ってきていたから、
父は心配しなかったらしい。
翌日も帰ってこなかった。
それから三日くらいたって、
方々探し回って「動物保護センター」で見つかった。
元気な若犬が走り回り、吠えたてる檻のなかで、
太郎はvictorの犬のように、腰を落とし前足を立ててじっとしていた。
全身びしょ濡れで、惨めな姿だったが「哀れ」ではなかった。
むしろ孤高で、気高かく見えた。
ふと98歳で死んだ祖父に似ているなと思った。
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